大判例

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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)230号 判決

宅地審議会の答申にかかる「賃料鑑定評価基準」が、積算式評価法、賃料事例比較法及び収益分析法を賃料の鑑定評価方式として掲げていることは控訴人主張のとおりであるが、しかし右方式は特定の物件を当事者の関係から切りはなして物自体を対象とし、いわば客観的な賃料を算出しようとするものであるから、新規に賃貸借を設定する場合には、賃貸借当事者間に存在する個別的主観的事情を考慮しないところに難点がある。一般に賃貸当事者間の右事情は、一応当事者の自由な契約によって選択した従前の賃料額(但し統制にかかる分はしばらく別とする)に反映しているものとみるべきところ、借家法第七条は土地若くは建物に対する租税等負担の増減、土地若くは建物の価格の昂低又は比隣の建物の借賃との比較等賃料決定後の経済事情の変動を賃料増額請求の事由としてあげているのであるから、賃料増額当否の判断は、従前の賃料に反映している賃貸借当事者間に存在する個別的主観的事情を考慮すべきことを当然予定しているものと考えられる。従って本件のように従前の賃料を改訂し増額する場合には、まずもって右増額の一要素たる土地建物の価格の昂騰を考慮し、従前の賃料に、土地及び建物価格の上昇率を乗ずるいわゆるスライド方式をとり、これにより賃貸借当事者間の右事情をそのまま一定倍率によって勘案するとともに、その結果に対し、必要に応じ控訴人主張のその余の方式による算定結果を参酌加味して、その調整修正をはかり、窮極において当事者間の公平を保持すべきであろう。<中略>

そこで前記各鑑定の結果、その他本件に現われた一切の事情にかんがみ、殊に、被控訴人は本件建物の曳移転の際多額の改造工事費(第三者の作成にかかり、弁論の全趣旨によりその成立を認める乙第一八号証の一ないし七によると、その額は金四二万一四一五円である)を自ら支出した事実を考慮し、所要の調整修正をほどこせば本件建物の適正賃料は少くとも原判決の認定する月額金二万円とするのが相当であって、当審に現われたその他の証拠をもってしても、右認定を左右し得ない。すると本件建物の賃料は、控訴人の賃料増額の意思表示が被控訴人に到達した日であることに争いのない昭和三九年一二月五日から、月額金二万円に増額されたことになるが、控訴人はその翌日である同月六日から増額されたことの確認を求めているところ、被控訴人がこれを争っていることは、弁論の全趣旨により明らかであるから、控訴人は被控訴人に対し、右増額にかかる賃料額の確認を求める利益を有することは多言の要がない。控訴人が前記増額の意思表示をしてから今日までさらに相当の年月が経過しており、その間経済事情の変化のあることは当然であるが、これについて控訴人が本判決後にさらにあらたな増額請求をするかどうか、それを許すべきか否は別問題である。よって控訴人の本訴請求中、原判決認容の限度をこえる部分は失当として棄却すべきである。

(浅沼 岡本 田畑)

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